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山口物語

 日に日に寒さが増してくる。こんな時分には煩わしいことを投げ捨てて温泉へでも行ってやろうじゃないか、と思うのは僕だけだろうか?温泉、そうそう温泉といえば前にこんな出来事があった。
 
 もう3~4年は前のことだが、家族で山口の温泉へ一泊二日の旅行へ出かけた時だ。これといった見どころがあるような街でもなく、お宿でのんびりくつろいでください。そんな感じの街で、個人的には結構好きな感じ。温泉へ真っ先に入り、浴衣に着替え、ちょっくら街を探索してやろうと決め込んだ。折角だからとフロントへ行き骨董屋の場所を聞く。すると大道りをすこし右手に沿って行けばありますよ、といわれ、いかにも温泉旅行者といった感じで店を探した。本当にすぐ見つかった。というのも外観が非常に珍しいのだ。お城のような店構えをしているのだ。ひょっとするとこれを読んで分かった人もいるかも知れない。それぐらい目立つ店構えなのだ。
 
 「こんにちは、ちょっと見せてください。」

 店に入ると骨董品が所狭しと飾ってある。古伊万里のお皿や、古銅の水盤、唐木の飾棚に大きな徳利。とにかく色々ある。ぐるっと見ている僕の目に一つの焼き物が飛び込んできた。

 志野の火入れ である。

 ガラスケースの中へちょこんと行儀良く、志野が座っていた。
 「すいませんが、あれを見せて頂けますか?」
 僕がこう尋ねると、店の女主人は快く応じてくれ、ケースから志野を取り出して見せてくれた。

 早速裏を見る。真赤だ、口台が真っ赤なのだ。時代の感じもいい。上がりもけして悪くない。
そう、これは僕の目に狂いがなければ「正真正銘桃山の志野」である。
 しかし待て、「桃山の志野」なんてものがそんなに簡単に目の前にあって良い訳がない。おそらくこれは僕の欲が目を暗ましているだけで、本当はもっと時代が下るもの、、、(しばし眺める)
いやいや、これはどう見ても桃山ある!!そうだ!!聞けばいいのだ。

 「すいません、この火入れはどれくらいするものですか?」

 僕は少し緊張しながら、値段を聞いてみた。すると、

 「すいません、それは主人がこないだ仕入れたもので、なんでももっか研究中だからって、値段はまだ決めてないんですよ。」

 なな!!なんと!!
 するとこの女性はどうやら女主人ではなく、ここの主人の奥方なのだろう。しかも主人は現在留守、もっか研究中と云う事で値段はまだ決まっていない。おそらく主人も桃山かも知れぬ、という感覚が頭を持ち上げてきているのであろう。

 これは好機、ではあるまいか。

 僕は自分が骨董屋であることを奥方に告げ、是非これくらいの値で分けてほしいと交渉をし始めた。しかし奥方は私の一存では決めかねる、の一点張りで交渉の場にあがってこず、結局僕はあきらめて店を後にした。
 その日は温泉にもう一度浸かりながら、あらためて骨董の面白さを噛みしめていた。あれはやっぱり、桃山の志野、だったのだろう。

by harakobijyutu | 2007-12-18 18:35