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希望ある野

 今月に入って備前へ出かけた。ある人に備前についてのことをいろいろと教えて頂こう、という

ものである。

 店からは5点持って伺う。福山からは下道でも約2時間のものだ。少々は早めに着き、昼時とい

うこともあり少し時間を潰すべきかどうか迷った。なにせ私自身は初対面である。

 結局約束の1時より15分ほど早くお宅へお邪魔した。

「やあやあ、初めまして。どうぞ、上の茶室でお茶にしましょう。」

 彼は私が想像していたよりもずっと柔らかい感じの人で、挨拶もそこそこに彼の設けた茶室へと

案内をしてくれた。

 お茶を飲み自己紹介。お互いに思う最近の景気や、備前焼について話をし、車に積んでいる私が

店から持ってきた古備前を見ながら話をしよう、ということになり場所を自宅に移した。今回は私

が、一から古備前のことをお聞きしたいと無理をお願いしたにも関わらず、彼は本当に丁寧に教え

て下り、私としては、ああ、やっぱりと思うことよりも、初めて聞くことのほうが多く非常に勉強

になった。

江戸初期の茶碗や茶入れなど、実物を見ながらポイントを教えて頂き、大変にためになった。

店から持って行ったものも見て頂き、実際の感想を聞いた。私の当初の思いと大きくズレル物はな

く、自信もでてきた。

 そんな矢先、私が見て頂いた水指に刺激されたらしく、彼が

「これは滅多な人にはお見せしないんだけど、君になら」

と、そんなことを言いながら一つ奥から水指を持ってこられ、見せて頂いた。


 鳥肌がたった。

 まだ野にこのような名品があるのだ。このような大名品があるのだ。

「これはおそらく3本の指に入る水指ですよ。古備前ではね。」

 彼は眼を輝かせながらそう話し、私も莫迦みたいに覘きながら頷いた。

 今思うと、あの瞬間私と彼とは完全に古備前を通じて仲間になっていた。そんな気がする。

 その後も古備前、備前にまつわる話はつづき、私はすっかりお邪魔をしてしまった。

 本当に楽しい時間であった。

 帰りの車の中でも興奮は冷めず、何度か車を止めてはコーヒーを飲んだりした。あのような大名

品が美術館に収まらず、野に、市中にあるという現実。それは本当に希望である。

by harakobijyutu | 2009-11-15 16:50